1. 「 鶴 」
鶴は亀とともにおめでたい動物として知られます。平安時代、中国から鶴は吉祥の鳥であるという思想が入ってきて以降、わが国に定着したのです。ですから古墳時代の装飾に鶴の絵柄が描かれているのは、身近にいた鳥だからであり、しかも食料としていたからで、長寿を願ってということではないようです。鶴を食べるというとびっくりされるかもしれませんが、実は鶴は鳥類の中でも最も美味な鳥として知られていました。縄文紀の貝塚からは鶴の骨が出土していて、江戸時代までは宮中の行事として鶴が料理され、その包丁裁きは秘伝としてむやみに口外しませんでした。また鶴の羽根は、矢羽根や、茶会で用いる箒・鳥箒に、骨は櫛や笄にするなど、吉祥の鳥として愛でつつも、しっかり利用しています。それというのも現在は釧路湿原や九州の出水、山口県の八代に渡来するだけになってしまった鶴も、江戸時代までは日本各地に渡来していたためです。
仏典では鳴いて人々に危険を知らせる賢い鳥とされる一方、お釈迦様の前生物語では悪鳥として登場します。盗賊の首領として生まれていたお釈迦さまに、鶴は青年が金を持っていると鳴いて知らせます。青年は鶴の鳴き声をいぶかりつつも吉鳥と信じたために、盗賊に捕らえられてしまいます。
「おまえは、道を塞ごうとしたジャッカルを忌まわしいものとして追い払ったが、ジャッカルはおまえの母の生まれ変わりで、おまえを窮地に陥らせまいとしたのだ。一方で、鶴の鳴き声は幸いをもたらすと、なんの疑いもなく信じこんだために捕らえてしまった。」これはうわべにとらわれてはいけないということを説いているのです。