筆録
 
2010年
 

… ヴィシュヌとアスラ … 

仏教の守護神は、古くインドにその源流を持ちます。ヒンズー教の神であるヴィシュヌは、さまざまなものに姿を変えます。それは、インド各地には古来から多くの土着の神がおり、それらをヒンズー教が取り込んでいったために、多様な性格が付与された為と考えられています。

まず、ヴィシュヌが先ず姿を変えたのは魚であり、大洪水が起きたとき、箱船を造って人間や動物を救ったといわれています。次は亀になりました。あるとき、悪魔の呪いで世界が活力を失ってしまったために、海をかき混ぜて、海底から霊薬を得る必要がありました。神々と魔族は協力して宇宙の中心にあるマンダラ山を引き抜き、それを亀の上に乗せました。そして、7頭の大蛇をマンダラ山に巻き付かせ、神々と魔族が海底をかき回すと、海の底から霊薬や種々の宝物と共にラクシュミーという女神が誕生しました。玄奘の「大塔西域記」にも登場する北インドの王ハルシャ・ヴァルダナ作の仏教文学作品「ナーガーナンダ」に、「海をよそにして美しい月の光も出ぬ理」という句があります。これは、この話しが下敷きとなっています。ラクシュミーは、仏教に取り入れられ吉祥天になりました。ラクシュミーはヴィシュヌの妃になりましたが、仏教では毘沙門天の妃または妹ともされ、善膩師童子(ぜんにしどうじ)を子とし、鬼子母神(きしもじん)を母、徳叉迦龍王(とくしゃかりゅうおう)を父、黒闇天(こくあんてん)を妹としています。後には、一般に弁財天と混同されることが多くなりました。また、日本神道においては、神社でも信仰の対象としている所もあります。

さて、神々と魔族は海底で甘露の入った壷を得て霊薬を飲み、世界に活力はよみがえったのですが、この話にででくる魔族とはアスラといいます。仏教でいう阿修羅(あっしゅら)です。アスラはアーリア人固有の神であり、元々は悪神ではありませんでした。しかし、人知で計り知ることのできない力をふるうことから、インドではいつしか悪神とされしまいました。仏教においては、阿修羅は悪鬼神でしたが、帝釈天との戦いに敗れて、仏教に帰依し、以来正法を護持する善神になりました。仏教守護神ではありますが、また六道の一つである阿修羅道に住むとされるのは、この経緯をそのまま受け継いでいるということができます。

奈良の興福寺の阿修羅像(国宝)は有名ですが、美術的にも乾漆彫像も我が国最古のものとして高い評価を得ています。(写真はインドにて)







 
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