3. 鶏
鶏を飼うことは四千年以上前にインドで始まりました。鶏は闘争性があり、闘鶏は非常に古くから行われていました。教会の塔の十字架の上に風見鶏を付けるのは、その闘争性で悪魔を祓うとされたためです。わが国でも闘鶏は平安時代、宮中において頻繁に行われ、鎌倉時代に入ると三月三日の行事として定着します。江戸時代には一般庶民の間でも流行し、賭けまで行われたため、幕府は禁止令を出しました。また闘鶏は元来「神占」として出発したという説があり、絵巻物には神社での闘鶏が描かれているものがあります。
鶏のもうひとつの役割は時を知らせることです。『万葉集』にも、鶏が鳴いたから夜が明けたようだという歌があるように、時を告げる性質がかわれて広く飼育されました。古代ペルシアでは、鶏は太陽の使徒として神聖視されました。
鶏が決まった時間に眠り、起きることから「ミリンダ王の問い」では修行者もかくあるべしと説かれます。また鶏は地面を何度も掘って食物をついばみますが、修行者も何回でも省察して食事をすることだとされます。すなわち身体の維持と善行を続けるために食物を摂取するのであって、奢りのためではないというのです。こうした鶏の生態に照らして修行者のあるべき姿を説くというのも、養鶏発祥の地ならではでしょう。
さて、かつて日本では仏教思想の広まりとともに食肉が行われなくなりましたが、桃山時代になると卵は口にするようになったといいます。綱吉の「生類憐れみの令」により一時中断しますが、令の撤廃後は街には専門の鶏肉店もできました。なお、前述の「生類憐れみの令」を境にして、日本人は狗肉を口にしなくなったといわれています。
(写真:インド 車窓より望む)