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償朗村の陳文村長は、見るも無残な畑を呆然と眺めていた |
人口の3割以上をミャオ族など少数民族が占める貴州省は、豪雪の最も深刻な被害を受けた地域のひとつだ。ミャオ族が住む黔東南州の償朗村。陳文村長(43)は、畑にしゃがみ込み途方にくれていた。村民は1200人。1人当たりの平均年収は1500元(1元=約15円)という貧しいこの村の農作物が、全滅したからだ。
「1月3日から36日間、雪に閉ざされた。水道も電気も止まった。子供や老人が凍死しないよう、村人が必死で見回ったんだよ」
同州農業局の楊洵氏は「2002年から冬の気温が微妙に上がり、06、07年の夏はひどい干魃(かんばつ)だった。だから作物を植える時期をずらし、品種も変えた。その直後の寒波と大雪だったからショックは大きい」と話す。
同州の丹寨県では松や杉の林が壊滅した。雪の重さで折れた幹や枝は、すでに枯れている。その光景は、豪雪のすさまじさを物語っていた。
「幹の直径が20センチになるまで松を育てるのに、20年かかる。苗木も全滅してしまった」と、県の郭沢貴副局長は苦渋の表情だ。
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丹寨県では送電用の鉄塔が倒れた(丹寨県供電局提供) |
豪雪の原因は何なのだろう。中国中央気象局は、太平洋の赤道中央部からペルー沖にかけ海面の水温が低くなる「ラニーニャ現象」が、直接の原因ではないかとしている。大気の環流は海水の温度に影響を受け、それが気象の変化を引き起こす。ラニーニャ現象によって降水量が増えるというのが通説だ。
南京大学大気学部の余志豪教授によれば、ラニーニャ現象はこの100年あまりに20回前後発生しているという。そのうちの6割が、中国の気温低下をもたらしたことが統計上記録されている。このため余教授も「先の豪雪がラニーニャ現象の影響であるという推測はできる」と話す。
「しかし」と余教授は続ける。「ラニーニャだけでは説明できない。今年の豪雪は特別ひどく、なぜそうなったかは議論の的だ。ラニーニャは原因のひとつの可能性にすぎない。むしろ、地球温暖化こそが元凶ではないか」
だが、明確な根拠はない。「地球温暖化による大気の温度変化が逆に、海水温度に影響を与え、相互作用があると考えられる。ただ、その因果関係のメカニズムを裏付けるだけの統計資料はなく、明確に説明できる人は今のところ誰もいない」という。
こうした見解に異論を唱えるのは、中国気象局国家気候センターの任福民研究員だ。任氏は雑誌「南方週末」の中で、「地球温暖化が豪雪の原因だということはいえない」と指摘。オーストラリアの気候学者、ペニー・ホイットン氏も「中国での異常気象は数年、数十年に一度起きうる。豪雪もそのひとつであり、地球温暖化とは何ら関係ない」と断言している。中国科学院の気候学者、秦大河氏も「一切の問題を地球温暖化に帰結させるのは問題がある」との立場だ。
議論は尽きないようだが、「地球温暖化が進むなか、地球レベルで極端な気象現象が頻発している」(鄭国光・中国気象局長)ことだけは確かだ。
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貴州省・丹寨県の松林。雪の重さで木々はことごとく折れていた |
国際エネルギー機関(IEA)によると、地球温暖化の最大の原因とされる二酸化炭素(CO2)の06年の排出量は、中国が前年比5億トン増の56億トン。米国は同57億トンで、07年には中国が米国を抜き世界最大の排出国になると予測している。一方、研究機関の「オランダ環境評価機関」は、2006年にすでに中国が世界1位になったと報告している。
中国政府は、人口1人当たりのCO2排出量は世界92位と小さい、と国際社会に向け反論する。だが、13億人の民を抱え、高度経済成長を続ける大国からは、きょうも大量の温室効果ガスが吐き出されている。
その中国も昨年6月、2010年のエネルギー効率を05年比で20%上げるなどの目標を盛り込んだ、中国初の地球温暖化総合防止政策「中国気候変化対応国家プラン」を発表した。その5カ月後には「中国クリーン開発メカニズム(CDM)基金」を設置し、温暖化対策に本腰を入れる姿勢をみせ始めた。クリーン・再生エネルギーの活用やエネルギー利用の効率化、工業、農業における技術革新などが主眼だ。
こうした国家計画の推進を念頭に、温家宝首相は、3月の全国人民代表大会(全人代=国会)での政府活動報告で「07年、エネルギー効率は前年度より3・27%改善し、二酸化硫黄の排出量も初めて減少に転じ、4・66%減少した」と強調した。しかし、全人代での議論では「省エネ、温室効果ガス排出削減の効果はまだまだで、目標達成への道は遠い」(張全・上海市環境保護局長)などの極めて率直な見解も表明された。
中国にとり、経済の持続的発展を維持しつつ温室効果ガスを削減することは、生やさしいことではない。(北京 福島香織)
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【用語解説】豪雪の被害
21省・自治区におよび、被災者は1億人以上。民政省の統計や国家林業局によると、死者129人、行方不明4人、避難者166万人。倒壊家屋は48万5000戸、半壊168万6000戸。中国の全耕地の約1割にあたる1180万ヘクタールと、全森林のやはり1割(1860万ヘクタール)が被害を受けた。直接の経済損失は1516億5000万元(約2兆2747億5000万円)。