筆録
 
2011年
 

4. 「 龍 」

お釈迦様が降誕された時、九龍が天から下って香水を注いだと伝えられます。花祭りで、誕生仏に甘茶をかける風習はこうした故事によります。は「天八部衆」という仏教の守護者ですが、仏教が信仰される以前から、インドにおいて広く崇拝されてきました。その理由として、インドには毒蛇が多いことがあげられます。蛇を好きな人はあまりいませんが、毒蛇となると好き嫌いではなく畏れの対象です。こうした畏怖が、という実在しない存在を生み出したといえます。はサンスクリット語の「ナーガ」を語源としていて、本来は蛇、特にキングコブラを意味する単語です。

一方わが国でも「古事記」のヤマタノオロチの伝説をはじめ、「常陸国風土記」など多くの書物に大蛇の話が載っています。しかし日本に生息する最も大きな蛇はアオダイショウで、それも2メートルを超えるものはいないので、これも蛇への恐怖心からでたものでしょう。また弥生時代の遺跡から出土した銅鐸は、祭祀に使われたとする説が有力ですが、蛇の図柄を描いたものが多く、有史以前から蛇は呪術的なものにかかわっていたという見方があります。

さてお釈迦様が『法華経』を説かれた際に集まったのが八大王です。その中の難陀(なんだ)という王は、梵天の命を受けて大地を支えているといいます。八大王の名は、源実朝も和歌を詠んでいます。
「ときにより 過ぐれば民の 嘆きなり 八大王 雨やませたまえ」
水を支配するというに、大雨を止めるよう祈った詠です。ヒンドゥー教ではは深い地底を住みかとしているとも、海を住みかとしているともいいます。すなわち我々の世界の根底を支えている存在と考えられてきたのです。



 
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