薫風
五月に新緑の香りをのせ、初夏を思わせる、爽やかな風を薫風といいます。風薫る季節。四月半ばから五月半ばにかけての薫風のそよぎは、清々(すがすが)しい空気のたたずまいを誘います。
「薫風自南来 殿閣生微涼(くんぷうじなんらい でんがくびりょうをしょうず)」これは、碧巌録の公案の一節で、弟子の「如何なるか是れ諸仏出身の処(仏さまを規定する条件は何ですか)」の問いに答えたものです。老師は、「仏さまというものはあらゆる規定や限定を超えているものだ。今、本堂は薫風によって、微かな涼しさが生まれている。この薫風こそが、仏さまじゃないか。」と答えています。
移りゆく季節の中に、身を置くことの喜び。四季折々の渓声山色の姿の中にも、仏さまの命を宿し、その光に輝いているのです。
「峰の色 渓(たに)の響きも皆ながら 我が釈迦牟尼の声と姿と」(道元禅師和歌集)
