5.「 馬 」
5月5日は元日と並んで最も古くから節日とされてきた日です。大宝律令が完成した701年以降、この日には騎射が行われるようになりました。騎射とは、馬に乗りながら弓を射ることで、「やぶさめ」の名で知られています。
ところで「馬力」を辞書でひくと、工業の仕事率の単位と掲載されています。いかに馬が人間に労力を提供してきたか分かろうというものです。すでに大化の改新の詔では、諸国の道に馬を置いて、公用の使者の交通手段とすると定められ、放牧も各地で盛んに行われました。武士の時代になると、馬は刀や甲冑と共に大切な武具のひとつで、軍記物語には多くの名馬の話が載っています。
馬頭観音の信仰が盛んになったのもこの頃です。馬頭観音は魔障を除いて慈悲を垂れたもう菩薩ですが、わが国では馬を護る観音さまとして信仰されてきました。馬は大変頭がよく、人の心を見抜くといいます。ですから、馬に乗る者は、馬を上手にコントロールすることに神経を集中させます。仏教では修行のありかたを御者と馬車の関係で説き、御者を修行者、馬を人間の感覚にたとえます。
人は常に外界の刺激を感じ取って生活していますが、その刺激を冷静に受け取っているかといえばそうではないでしょう。しばしば、与えられる刺激や情報に振り回されて、熱中したり嫌悪したりしています。すなわち煩悩に捉えられているのです。従って馬を御するが如く、感覚に訴えてくるさまざまなものを、智慧によってコントロールすることで涅槃の世界に到達できると説くのです。
(写真:中国黄山 望:山頂付近)