八大龍王
いよいよ、梅雨が近づいて参りました。さて、今月は「物外和尚逸伝」「雨請(あまごい)」で、「八大龍王」のくだりが出てまいりました。そこで、このページを使い「八大龍王」に纏わるお話しをさせて頂きたく思います。
お釈迦様が法華経を説かれた際に集まったものの中に、「難陀(なんだ)」「跋難陀(ばつなんだ)」「娑伽羅(しゃから)」「和修吉(わしゅきつ)」「徳叉伽(とくしゃか)」「阿那婆達多(あなばだった)」「摩那斯(まなす)」「優鉢羅(うぱら)」という名を見ることができます。これは、我が国で祈雨や止雨の尊格として信仰されてきた八大龍王神です。ここでいう「龍」とは梵語の「ナーガ(Ng)」、すなわち蛇類が神格化されたものです。蛇が好きな方は、とても少ないと思われますが、暑いインドでは毒蛇も多く、日本よりは深刻に恐れられてきました。人間は、恐れを抱いたものを、神格化する性向を持ちます。それが、蛇類が龍王となっていった主な理由です。
さてさきの、難陀(なんだ)というのはアナンタ龍王のことで、この龍王は梵天の命を受け大地を支えています。仏教に取り入れられる以前は、ヴィシュヌという、神の座となっていました。ヴィシュヌは、太陽が天地を普く照らすさまを神格化したものと考えられており、シヴァと共にヒンズーの二大主神です。別名をナーラヤーナといい、「大無量寿経」の中に、阿弥陀仏が過去世に法蔵という名の修行者であったとき、「願わくは、ナーラヤーナ神のように、力強くなりたい。」という誓願を立てたと記されています。
カトマンズ近郊のブダニールカンタ村に神像がありますが、池で眠っているのがヴィシェヌで11世紀の作とされています。ヴィシェヌは陽光の神格化で、6月末から10月までのモンスーンの間、ヴィシェヌは眠り続け、恵みの雨をもたらすと信じられています。実りをもたらすモンスーンへの思いが、ヴィシェヌへのこのような信仰になっていきました。そして、雨季があける頃には、多くの人々がお礼参りに訪れます。
この、ヴィシェヌの傍にいる蛇がアナンタ龍王で、この像は11の頭をもっていますが、一般的には九つか七つか五つの頭をもつものが多く見られます。ネパールの古都パタンやバドガオンに行くと、高い柱の上に座っている仏様の頭上に、蛇が七つの頭をもたげている像がいくつもあり、有名なアンコールワットにも多頭の蛇の彫刻を沢山見ることができます。

ヴィシュヌ(コモンズより)