筆録
 
2011年
 

6.「 クジャク

日本で雨といって連想するのは蛙ではないかと思いますが、インドではクジャクが雨を呼ぶ鳥として知られています。孔雀の発情期がインドの雨季と重なるため、その声は雨雲を呼んで、稲妻を起こすといわれてきました。灼熱のインドでは、雨はゆううつなものではなくまさに恵みです。日本でも奈良・平安時代には、孔雀明王が雨乞いの仏像として信仰されていました。

クジャクはインドの国鳥で、仏教装飾に多く取り入れられています。『阿弥陀経』では、極楽浄土にもクジャクがいて、浄土を飾っていると述べています。羽を広げたときの美しさから、日本では専らその意匠が珍重されてきましたが、インドでは益鳥として尊ばれてきました。
熱帯のインドは毒蛇が多く、クジャクは毒蛇を食べてくれる鳥として神格化されました。しかし一方では耕した畑を荒らしたり、種や実を食べてしまったりと、動物との共存はどこでも難しいものがあるようです。

クジャクは日本には生息せず、推古天皇の598年に新羅から献上されたのが最初です。平安時代、藤原道長が自邸に造営した法成寺の池の中州には、クジャクと鸚鵡(オウム)の造り物が飾られていたと「栄花物語」は伝えますが、異国の鳥に対する憧れがうかがえます。時代が下ってポルトガルとの交易が盛んになるとクジャクに関する記事は、多くの文献に見られるようになり、孵化も盛んに行われました。羽を広げる様子を見せることも芝居小屋などで行われましたが、雌を誘うために広げる雄の羽は、時期が終わると全部抜け落ちてしまうのだそうです。クジャクの羽が抜けてしまうのと同時に、インドの雨季は終わりを告げます。
(上:画 クジャク 下:写真 雨季の涅槃堂 インド)

 
ページトップへ
 
 
<前頁        次頁>