筆録
 
2012年
 

6.七十二候を読み解く「腐草為螢(かれたるくさほたるとなる)」

6月11日は、腐れたる草、蛍となるというまことに不思議な日です。

とはいえ水辺の、くったりと水を含んだ草の陰にほのかに光るというイメージは、蛍に合っています。蛍の語源については「火垂」「星垂」ほか諸説ありますが、目に見える光を発する虫は他にないため、古来から夏の風物詩として愛でられてきました。多くは尾の部分に発光器を持っていますが、持たない蛍もあり、こちらは当然光りません。水質の汚染や護岸工事の結果近年激減したため、全国で蛍の保護・養殖が行われています。

蛍の宿は川端柳と歌にあるように、蛍は水生と思っている人が多いと思いますが、実は陸生の蛍の方が多く、水生は世界でも数種類だけとむしろ珍しいのだそうです。日本の水生蛍はゲンジボタルとヘイケボタルで、ヘイケボタルの方がやや小さめです。また、陸生の蛍は28種も生息しています。

      この蛍 田ごとの月に くらべみん

蛍の名所である大津・瀬田での芭蕉の句ですが、田ごとの月とは、長野県更級にある冠着山のふもとにある小さく区画した水田に映る中秋の月のこと。その月と蛍を比べた句です。いかにもあえかな蛍の光を伝える句ですが、一方で、ある本にこんな記述があります。ラバウルでは、大木に数千万の蛍が群がって明滅し、まるでクリスマスツリーのようだったというのです。中国・晋の時代、車胤という人が蛍の光で勉学に励んだという「蛍雪の功」の故事も、ラバウルの蛍の話とつき合わせると、だいぶ印象の違ったものになりますね。


 
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