筆録
 
2006年
 
7月29日(土)
江戸しぐさ
今年の梅雨はとても長く、日本各地に大きな被害をもたらしました。どちら様も、大過なくお過ごしでございましょうか。広島県は7月27日に梅雨明けとなったようです。
先日、本年の「げんこつ茶会」について話し合いが行われました。そして、和やかな中で話し合いも終わり、お帰りになられるとき、たくさんの人で境内があふれました。外はあいにくの雨…。人の多い境内で、傘をさして歩くのは、少々難儀です。そんなとき、ごく当たり前の如く行われている「傘かしげ」を、久しぶりにお茶人の皆様に見ることができ、心が洗われたような気が致しました。
「傘かしげ」とは、雨の日に小路を歩いていているときや、境内などで人があふれているときなどに、相手に傘のしずくがかからないように、傘を外側に傾けすれ違うしぐさです。そして、加減よく傘を傾けるのでお互い雨にぬれることもありません。また、すれ違うときにお互いが肩を引き合って、ぶつかるのを避けることを「肩ひき」と言います。さらに、「腰浮かし」というのもあります。長いすなどに座っているときに、あとから人がやってきたら、腰をうかして拳一個分つめて一人分の席を空け譲りあうことをさします。電車内で、シルバーシートを占領し、老人を立たせたまま携帯電話に熱中したり、眠ったりしている若者。また、車内で人目もはばからず化粧をしている娘、そしてそれをじろじろと観察する男性。このような光景も、珍しくなくなりました。さらには、食事の最中にかかってくるセールス電話。先方は家人在宅の確率の高い時間をねらっているのでしょうが…。この種の押しかけを、以前は「時どろぼう」といってタブーとされていました。
「傘かしげ」「肩ひき」「腰うかし」「時どろぼう」など、これらは「江戸しぐさ」と呼ばれています。江戸時代に、人口が爆発的に増加した江戸の街を過ごしやすくするために、町民が考案したマナーで、その数は8,000以上あると言われています。なお、江戸町民の「粋」を守るために、あえて文章化はしなかったといわれていますから、いったいどうやってこのルールを普及させたのかとても興味深い所です。人々の関係が殺伐としている現代であればこそ、江戸町民に学び、私達も「粋」に振舞い、「潤い」ある生活を送りたいものです。


 
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