
現在の日本に象は生息していませんが、縄文期の初めまではナウマンゾウをはじめ数種類の象がいました。それら象の骨や歯の化石は薬として用いられ、「正倉院薬物」にも竜骨の名で載っています。しかし「竜骨」とあるように、その実体が象であると明らかにされたのは、平賀源内らによってで、江戸時代に入ってからのことでした。シーボルトも、小豆島で象の化石がたくさん発見されたと書いています。海外から象が初めて日本に贈られたのは1408年7月のことで、南洋諸島の王から将軍家に贈られました。

古代インドには現在よりずっと多くの象が生息していて、経典にもさまざまなかたちで登場します。『法句経』では象の忍耐強さを讃え、我々も人のそしりを耐え忍ぼうと説きます。また「ミリンダ王の問い」では象の優れた徳を五つ挙げています。その中の二つは象の歩行についてで、「あたかも地を砕くように象が歩行するように、行者もすべての煩悩を砕くべきである。」また、「象は正念をもって足を上げて下ろすように、行者も正念・正智をもって行動すべきである。」こうした喩えは象が身近にいて、生態をよく観察できることからこそでたものでしょう。