筆録
 
2011年
 
7. 「 象 」 

現在の日本に象は生息していませんが、縄文期の初めまではナウマンゾウをはじめ数種類の象がいました。それら象の骨や歯の化石は薬として用いられ、「正倉院薬物」にも竜骨の名で載っています。しかし「竜骨」とあるように、その実体が象であると明らかにされたのは、平賀源内らによってで、江戸時代に入ってからのことでした。シーボルトも、小豆島で象の化石がたくさん発見されたと書いています。海外から象が初めて日本に贈られたのは1408年7月のことで、南洋諸島の王から将軍家に贈られました。

戦後、インドのネール首相が日本に象を贈った話は有名です。 仏教では、マーヤー夫人が小さな白象が体内に入った夢をみてお釈迦さまをお生みになったという話がよく知られていますが、象はかの地で、陸上における最大の動物としてたいへん尊ばれてきました。…と同時に象を所有することは権力者の特権で、戦闘にも使われ、装甲車の役割を担いました。古今東西の話を集めた『今昔物語』にも、天竺では合戦に象が使われると記されています。

古代インドには現在よりずっと多くの象が生息していて、経典にもさまざまなかたちで登場します。『法句経』では象の忍耐強さを讃え、我々も人のそしりを耐え忍ぼうと説きます。また「ミリンダ王の問い」では象の優れた徳を五つ挙げています。その中の二つは象の歩行についてで、「あたかも地を砕くように象が歩行するように、行者もすべての煩悩を砕くべきである。」また、「象は正念をもって足を上げて下ろすように、行者も正念・正智をもって行動すべきである。」こうした喩えは象が身近にいて、生態をよく観察できることからこそでたものでしょう。
 
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