筆録
 
2012年
 
10.七十二候を読み解く「鴻雁来(こうがんきたる)」

10日8日は鴻雁が渡ってくる日。鴻は大きなガン、雁は小さなガンを意味し、古名をカリと言います。日本に渡ってくる雁の一つは真雁で、北極圏の沼や湖で繁殖し約二万羽が渡来しますが、その多くが宮城県の伊豆沼周辺や、石川県、新潟県の湖・沼・湿地で越冬します。もう一種は菱喰という雁で、アジア、ヨーロッパ大陸北部で繁殖、やはり日本で越冬しますが、菱喰は声が大きいのが特徴です。けれども、年々その数は減り、最近は四千羽ほどと推定されています。この二種以外にも、世界にいる十五種の雁のうち十種が日本に飛来した記録があるそうです。

昔は東京湾でも酒顔雁(さかつらがん)という雁が飛来したそうですが、近年全く姿を見ることができません。昭和46年に猟鳥の指定を取消し、国の天然記念物に指定して保護に努めていますが、渡来地として重要だった千葉県の手賀沼、印旛沼や岐阜の下池など多くの沼が開発されたのが減少の原因であるだけに楽観はできません。

秋の空を、一羽を先頭に隊列を組んで渡る様子は極めて印象的なため、雁の棹、雁陣などと表されます。
かつて欧米では、雁の編隊を元にした飛行戦隊が考案されました。けれども、けがをした雁は仲間と共に北へ帰ることができません。こうした雁は「春の雁」と呼ばれ、哀れを誘います。日本では古くから白鳥と共に霊鳥とされ、魂を運ぶ鳥とされています。



返りては また来る雁よ言とはむ

己が常世もかくや住み憂き (
藤原俊成)
 
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