筆録
 
2007年
 
12月1日
特集:STOP地球温暖化(その2止) 危機ヒタヒタと アジアにおける将来の気候影響
毎日新聞 05/29


07.5.29付 毎日新聞東京朝刊 に、「特集:STOP地球温暖化(その2止)」が、掲載されましたので紹介を致します。

地球温暖化の議論が熱い。6月にドイツで開かれる主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット)でも最重要議題の一つに挙げられている。その議論の科学的な根拠となっているのが、今年2月から5月にかけ、3回に分けて公表された国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書だ。地球環境は今後どうなるのか。「地球温暖化は人為によって引き起こされた」とほぼ断定した同報告書の内容を、素朴な疑問に答える形で解説してみる。【山本建】
◇IPCCって何?
地球温暖化が注目されるようになった1988年に設立された国連の組織。正式名称は「気候変動に関する政府間パネル」。各国の政府から推薦された科学者や政府関係者が三つの作業部会に分かれ、5、6年ごとに地球温暖化が「どこまで進行したか」(第1作業部会)と「将来起こり得る影響」(第2作業部会)、「その影響を抑えるための対策」(第3作業部会)という視点から分析・評価し、報告書として公表する。
IPCCの役割は、新しい発見をすることではない。むしろ、各国の研究者が発表した最新の研究論文を集めて総合的に評価することに力点がある。第1作業部会は主に気象学や地球物理学などの研究者が担当、第2作業部会は工学系研究者、第3作業部会は社会科学や法学研究者らで構成する。
IPCCの報告書はこれまで90年、96年、01年に作成され、今回が4回目だ。96年の報告書で、人間活動が温暖化を引き起こしている可能性に初めて触れた。当初は、「人間活動」と「温暖化」の因果関係については、不確実な部分もあると言われてきたが、因果関係の度合いは、データの蓄積などに基づき、報告書が公表されるたびに強まってきた。今年2月に報告書をまとめた第1作業部会は、約65万年前にさかのぼる大気の分析などに基づき、地球温暖化は「人為によって引き起こされた」とほぼ断定した。
◇報告書から地球をのぞくと…
地球温暖化はどのぐらいのスピードで進んでいるのか。IPCCの第1作業部会はこれまでの研究論文もふまえ、21世紀末の地球の平均気温は20世紀末に比べ、1・1〜6・4度上昇すると分析した。01年にまとめた第3次報告書では平均気温の上昇幅を1・4〜5・8度としていたが、最悪のケースでは、気温上昇はさらに加速するだろうと判断した。
それでは、人類社会は何度の気温上昇まで許容できるのか。
第2作業部会は「平均気温の上昇幅が90年比で2〜3度」であれば、温度上昇による被害と利益が相半ばし、コントロールが可能だと指摘した。2〜3度を超えて上昇した場合、北極や南極の氷、山岳地の氷河が解けたり、雪解け水が多くなったりして洪水が起きるようになる。
また、湖沼や河川、海面の水温上昇で、水資源の偏りが生じ、水不足や水質汚染が進行する。生態系に変化が生じて生物種の30%が絶滅の危機に瀕し、水面上昇により毎年世界の数百万人が洪水被害を受け、暴風雨被害も増えるという。
一例を挙げると、南アジアで穀物生産量が50年までに現在に比べ最悪30%減り、1人当たりの水入手量が3割以上減る一方、中国など東アジアでは20年までに河川の流量が増し、農業用水が6〜10%増えるとの試算もある。
緩和策(対策)を考える第3作業部会は、地球温暖化を抑えるための費用について議論した。
第2産業革命以降の地球上の平均気温の上昇を2・0〜2・8度に抑えるには、削減コストは30年までに世界の国内総生産(GDP)の3%、50年までに同5・5%になると試算した。費用をかければ二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量を大幅に減らせ、影響を最小限にできるという。
◇海面上昇の半分は熱膨張から
IPCC第1作業部会の報告書は、21世紀末の海面は20世紀末に比べ18〜59センチ上昇すると予測した。
なぜ海面は上昇するのか。温暖化で北極の氷や南極の氷床が解けるためと思いがちだが、その影響は意外に小さいようだ。北極の氷は浮いているため、コップの氷と同じように、解けても水面は上昇しない。一方、南極周辺の気温は顕著に上昇するとは予測されていない。氷床はあまり解けないらしい。
「今回の報告書は、予測手法の確立により、精度が高まった」(環境省の研究調査室長の塚本直也室長)といわれる。その分析の結果、海面上昇に最も大きな影響を与えているのは海水そのものの熱膨張ということが明らかになった。
熱膨張により水分子の密度が低くなり、全体の体積が膨れ上がって海面を押し上げる。
1993〜2003年に観測された年平均海面上昇は3・1ミリで、第1作業部会はこのうち熱膨張によって起きた上昇幅を約半分の1・6ミリと見積もった。次に大きいのがアルプスやヒマラヤなど山岳地域の氷河や氷帽が解けて流れ出すことによって起きるもので、年0・77ミリ。南極の氷床は0・21ミリ分しか影響していなかった。
◇有機物の分解進み、森が炭素放出源にも
森林をはじめ、そこで生活する微生物や昆虫、動物などの陸域生態系は、CO2の吸収源になると考えられてきた。
日本は京都議定書の定めに従い、12年までに90年比で温室効果ガスを6%減らさなければならないが、国土に占める森林の面積が広いということで3・8%分は森林による吸収分として認められている。
ところが、この常識が地球温暖化によって大きく変わりそうだ。IPCC第2作業部会の報告書によると、森林が吸収しているCO2の量は00年におよそ20億トン(炭素換算)。これが地球温暖化が進むことによって2050〜75年の間に炭素排出源に転じ、2100年までには最大同30億トン前後を排出することになると予測する。
日本の04年のCO2排出量の同13億トンをはるかに上回る数字だ。
理由はこうだ。気温の上昇で土壌の温度が上がる。有機物の分解が過剰に進み、微生物の呼吸が活発になり、その結果、二酸化炭素が大量に放出されるという。温暖化の進行で、温室効果ガスの吸収源が逆に放出源になる。地球温暖化問題の難しさを示している。
◇高緯度で恵み、中低緯度で悪影響
IPCC第2作業部会は、地球温暖化の影響を受けやすい地域として主に中低緯度地域を挙げた。アフリカ南部や中央アジア、中東、欧州南部などの中緯度、乾燥熱帯地域にある草原や半砂漠地域では雨季に降雨が減り、一時期に集中して大量に降る。その半面、気温上昇で蒸散量が増えて水不足に直面する。穀物生産量が落ち、食糧危機に陥る恐れがある。
また、ツバルなど小さな島からなる国やバングラデシュなど低地の大規模デルタを持つ国は海面上昇や高潮、洪水によって大きな被害を受けやすくなる。
一方、高緯度や湿潤熱帯地域にあるカナダやロシア、多くのアジアの国々では、高地の雪や氷が解けるなどの理由で、河川流量は5〜10%増える。カナダやアジアでは穀物生産量も増えるとみられる。
毎日新聞 2007年5月29日 東京朝刊
 
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