
ここでいう龍とは「ナーガ(naga)」のことで、インド神話に起源とする蛇の精霊あるいは蛇神をさします。お釈迦様が悟りを開くとき守護したとされ、仏教に龍王として取り入れられて以来、仏法の守護神とされてきました。蛇が好きだという人は少ないと思いますが、暑いインドでは毒蛇も多く、日本よりもっと深刻な問題で、とても恐れられてきました。人間は恐れをいだいたものを神格化する性向を持ちます。それが蛇類が龍王となっていった主な理由だと思われます。
さて、さきの難陀というのはアナンタ龍王のことで、この龍王は梵天の命を受けて大地を支えているといわれています。仏教に取り入れられる以前はヴィシュヌという神の座となっていました。ヴィシュヌは太陽が天地を遍く照らすさまを神格化したものと考えられており、シヴァと共にヒンズー二大主神で、別名をナーラーヤナ(narayana)といいます。「大無量寿経」の中に、阿弥陀仏が過去世において法蔵というなの修行者であったとき、「願わくはナーラーヤナ神のように力強くなりたい」と、誓願をたてたとかかれています。
カトマンズ近郊のブダニールカンタ村に伸像があり、池で眠っているのがヴィシュヌで11世紀の作とされています。その伸像は、寺院を飾るインド的彫刻と比べて、メソポタミアやエジプト的な印象を受けます。ヴィシュヌは陽光の神格化ですが、6月末から10月までのモンスーンの間はヴィシュヌは眠り続け恵みの雨をもたらすと信じられました。実りをもたらすモンスーンへの思いが、ヴィシュヌへの信仰となり雨季があける頃、大勢の人達がお礼参りに訪れるそうです。このヴィシュヌの傍らにいる蛇がアナンタ龍王で、この像は本来11の頭をもっていますが、一般的には九つか七つか五つの頭をもった姿であらわされます。ネパールの古都パタンやパドガオンに行くと、高い柱の上坐っている仏さまの頭上に、蛇が七つの頭をもたげている像がいくつもあり、有名なアンコールワットにも多頭の蛇の彫刻を沢山見ることができます。
(写真は「ヴィシュヌ」)