偉人と呼ばるゝものは必ず奇跡がある。奇跡は必ず偉人につきものである。奇跡をもって偉人そのものを信ずるというではなけれど、奇跡の偉人にあるは敢えて怪しむべきではない。寧(むし)ろ当然として之を許さねばならぬ。物外禅師は実に稀世の偉人である。その怪力その武芸すべてこれ奇々怪々である。金剛夜叉の化身とでも云うべきであろうか観音普門品(かんのんふもんぼん)に「執金剛神(しゅうこんごうしん)を以て得度すべき者には、即ち執金剛神を現じて為に説法す。」とある。彼の金剛夜叉と云い、執金剛神といい密迹力士(みっしゃくりきし)と云い、仁王と云うのはみな同体異名である。之が寺の山門に祭ってあるのは仏法守護の為じゃ。師の怪力といい武術といい、到底人間業ではあるまいとと思わるゝのは、この力士が仏法守護のため仮に人間に化生(けしょう)せられたのかもしれない。左(さ)もなくて万人に勝るゝ業の出来よう筈がない。 |
怪しき女子に遇う |
大蛇を退治す
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