紙面の都合上、原本より数句を抜粋いたしました。全文をご希望の方は、お寺までご連絡下さい。 なお、本文 隣に( )を付加いたしました。お気付きがございましたら、お寺までお知らせ頂くと幸いです。(済 法 寺)
師は尚風雅の道にも心がけられ、囲碁将棋茶道の外(ほか)に発句(ほっく)俳諧をも嗜まれ、常に以て楽しみとしておられた様子である。今遺稿の古紙中より拾い集めて読者の一覧に備えよう。
● 四季発句集
金槌天水遠宇知和留寒左哉 (金槌で水をうちわる寒さかな)
世乃人波皆長者奈利花濃頃 (世の人はみな長者なり花の頃)
古池也奈武万曹多津蛙乃子 (古池や何万そだつ蛙の子)
有明也障子一波比梅濃巴奈 (有明や障子いっぱい梅の花)
明月也輪賀影坊濃別連未天 (明月や我が影坊のわかれまで)
極楽茂地獄天良壽初日哉 (極楽も地獄もてらす初日かな)
人毛奈久我影茂那之梅乃花 (人もなく我が影もなし梅の花)
奈留神茂登万流蚊帳迺力哉 (鳴る神も止まる蚊帳の力かな)
風鈴也一文程迺今朝乃安吉 (風鈴や一文程の今朝の秋)
飛止天蛙毛無事曽冬古門梨 (飛止て蛙も無事ぞ冬ごもり)
天地乃知加良瘤奈利梅濃花 (天地の力こぶなり梅の花)
白雲乃上何茂奈之不二能山 (白雲の上何もなし不二の山)
祝春
大筒の音も聞こえじ御代の春
苣の葉も沢山それも若葉かな
鰯から光明咲くぞ鉢たたき
神代から此花といふ匂ひかな
吾ひとり初鈍蟇ともうしそろ
大声にふたこえ三声初からす
唐崎は引かずに遊ぶ子の日かな
正月を拵へている師走かな
あれは伊豫此方は豊後春の風
柳かなみるたびたびに観世音
維新前京洛中の騒擾相済み たれば、師世の人気(じん き)を回復して大涼を再興 せむこと斡旋したまいて詠 ず。
世の中の掃除はできて大涼
和宮親王の降嫁を聞いて
桐一葉おちて天下の秋をしる
師は常に三原公にに尊敬せらる。ある年の初め候には画工を召して画を命じらる。時に画工は何を思いけむ一羽の雁を描く。候怫然として曰く。雁は元群れをなすものなるに、一雁の離れて飛ぶは国の乱るる兆なりと甚だ喜びたまわず。左右のもの大いに怖れ、直に内使を師の許に馳せたまたま伺候せられしていにて来たらしむ。師諾して到らる。候之を引見し談、たまたま一雁の事に及ぶ。師直ちに讃して左の句を詠じたもう。
初雁や またあとからも あとからも
候大いに喜ばれ左右のものもまた初めてその意を安んじたりとなん。
鶴
毛 骨 珊 瑚 白 雲 清
千 年 世 上 頂 丹 成
晴 飛 碧 落 秋 空 闊
露 立 瑤 臺 夜 月 明
仙 鳥 雲 深 帰 有 信
天 壇 花 落 歩 無 声
時 来 華 表 何 人 識
依 奮 翻 身 上 玉 京
同
老 去 曾 看 相 鶴 経
暫 従 華 館 試 怜 俜
幾 年 養 就 丹 砂 頂
竟 日 間 梳 白 雲 羽
萬 里 士 心 原 自 許
九 霄 清 唳 好 誰 聴
神 仙 奮 侶 知 何 在
遙 望 逢 莢 一 點 青
(「羽」は左が「令」 右が「羽」)
失題
日 到 西 降 影 漸 長
金 剛 正 眼 輝 乾 坤
緑 樹 影 濃 夏 日 長
狸 奴 白 古 放 毫 光
(「古」は左が「牛」 右が「古」)
十六羅漢自画賛
衆 禪 和 輝 跨 歩 武
降 得 龍 兮 伏 得 虎
塵 沙 結 使 未 乾 枯
傀 儡 一 棚 誰 作 主
飛 錫 懸 光 倚 杖 梨
分 明 撤 出 駭 難 犀
欲 知 佛 法 深 深 處
山 静 雲 収 聴 鳥 聲
天保甲辰冬摸驚唐禪月大師図 濟法物外 拝賛
(「梨」は上の右側が「リ」ではなく「乃」)
失題
夫天地は風雅なり。萬像もまた風雅なり。この風雅は佛祖の肝胆なり。造花に従って四時を友とす。見る處花にあらずということなく、思う處月にあらずという事なく心月にあらずということなし。
……略……
古池や蛙飛びこむ水の音(桃青)
(注「桃青」は松尾芭蕉の号)